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マウスにおけるカフェインの皮質拡延性脱分極に対する影響

Yalcin N, et al. Caffeine does not affect susceptibility to cortical spreading depolarization in mice. J Cereb Blood Flow Metab DOI: 10.1177/0271678X18768955

 

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景・目的】

 米国では87%を超える国民が毎日カフェインを摂取している。 カフェインの慢性摂取は慢性連日性頭痛発症や片頭痛慢性化の危険因子であることが示されている。 また、カフェインの離脱によって頭痛発作が誘発され、カフェインを摂取することで一般に頭痛が軽減されることも知られている。 皮質拡延性脱分極 (cortical spreading depolarization: CSD)とそれに引き続いて観察される皮質拡延性抑制は片頭痛前兆を説明する生物学的現象とみなされている。 本研究ではCSD発生に対するカフェインの影響をマウスで検討している。

【方法・結果】

 雌性C57BL/6Jマウスを用いてCSDは電気刺激 (0.2-900 µC)あるいは300 mM KCl溶液局所投与を前頭葉に行うことで誘発した。 記録用ガラス毛細管電極を2カ所に設置し脱分極発生の確認とCSD伝播速度の測定に供した。カフェインは急性実験では30, 60, 120 mg/kgを腹腔内投与し、15分後にCSD誘発を行った。 慢性実験では60, 120, 240 mg/kgを1日2回1あるは2週間連日投与し、その15分後にCSD誘発を行った。一部のマウスでは1週間投与後に最終投与時点から24時間後に離脱グループとしてCSD誘発を行った。 局所脳血流はレーザードップラー血流計で測定した。また、血漿中のカフェイン濃度の測定も併せて行って、投与によって十分なカフェイン濃度の上昇を確認した。 カフェイン急性投与はCSD誘発に関する電気刺激閾値を有意に変化させなかった (中間値: 0 mg/kg; 150 µC, 30 mg/kg; 50.10 µC, 60 mg/kg; 47.50 µC, 120 mg/kg; 57.50 µC)。 1週間の慢性投与240 mg/kgにおいても閾値に有意な変化を与えなかった。 また、カフェイン離脱群でも有意な閾値に対する影響は確認できなかった (中間値: 0 mg/kg; 40 µC, 120 mg/kg; 105.00 µC, 240 mg/kg; 180.00 µC)。 KCl誘発によるCSDにおいても、1時間あたりの発生閾値に対してカフェイン投与の影響はいずれの投与方法によっても認められなかった。 また、CSD中の脳血流のピーク変化やCSD後の血流回復時間に対してもカフェインはいずれの投与法においても有意な効果を示さなかった。 家族性片麻痺性片頭痛1型のモデルマウスであるFHM1 R192Qマウスでは大脳皮質の興奮性やCSDの誘発性が亢進していることが知られている。 これらのマウスは300 mM KClによるCSD誘発頻度は野生型マウスに比較して上昇していたが、カフェインによる明らかな影響は認められなかった。

【結論・コメント】

 今回のデータはカフェインによってCSD発生閾値は明らかな影響を受けないことを示唆している。 これまでの報告では、カフェインは大脳皮質の興奮性に影響を与えることが動物のてんかん性放電に対して示されている。 しかし、今回の急性実験の結果を踏まえ、カフェインによる片頭痛抑制効果はCSDではなく、例えばドパミン受容体を介した作用などの関与がより重要ではないかと筆者らは考察している。 慢性のカフェイン投与はマウス脳内でのアデノシンA2A受容体発現を上昇させ、低親和性のA1受容体から高親和性のA2A受容体作用への変換が起こり、神経機能に影響を与えると考えられている。 しかし、今回の結果からはCSDはそのようなアデノシン受容体の変化に影響を受けないことが示唆された。カフェインに関連した頭痛の性状は必ずしも片頭痛様ではない。 したがって、片頭痛前兆と関連の深いCSDとカフェインの間に関連性を認めなかった本研究の結果は、臨床的に矛盾するものではないと考えられる。