日本頭痛学会

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375,000人を対象にしたGWAS結果に基づく片頭痛疾患感受性遺伝子座の同定

Gormley P, et al. Meta-analysis of 375,000 individuals identified 38 susceptibility loci for migraine. Nat Genet 2016;doi:10.1038/hg.3598

 

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】
  一般の片頭痛症例を対象にしたゲノムワイド関連解析 (GWAS)がこれまでいくつか行われ、様々な候補遺伝子が同定されてきた。その結果、片頭痛病態におけるグルタミン酸機能やイオンチャネルなどの重要性が裏付けられてきたが、本研究ではそれらの結果を統合してメタアナリシスを行い、片頭痛疾患感受性遺伝子座の同定を行った。

 

【方法・結果】
 これまで行われた22のゲノムワイド関連解析 (GWAS)のデータをもとにメタアナリシスを行った。 三次頭痛医療機関で施行された6つの研究と37の一般人口をそれぞれベースにした研究から得たサンプルを集積した結果、患者59,674名、対照者316,078名を対象とすることができた。 これによって、これまでの研究で対象とならなかった35,000名以上の片頭痛患者のデータについて解析が行われた。 なお、一部の症例では診断が医師ではなく、自己記入式アンケートによってのみ行われた。 一部のSNPの欠損データはインピュテーション (imputation)によって補完された。 一次解析によって、44個の有意な片頭痛発症関連SNPが同定され、それぞれは連鎖不平衡による影響からは独立であることが確認された。 それらのSNPが存在する遺伝子座としては38個が同定された。 その中には、過去の片頭痛に関するGWASによって同定された13個の片頭痛疾患感受性遺伝子座のうちの10個が含まれていた。 また、6つの遺伝子座においては、その遺伝子座内で最も有意な関連性を示すSNP (top SNP)とは連鎖不平衡にない別個のSNP (secondary SNP)も、片頭痛発症と有意な関連性を示していた。 その6つの遺伝子座とは、LRP11-STAT6-SDR9C7、PRDM16、FHL5-UFL1、TRPM8-HJURP、TSPAN-NGF近傍、PLCE1であり、 PLCE1は今回のメタアナリシスで初めて片頭痛発症との関連性が指摘された。 38の遺伝子座のうち32は、タンパク質をコードする遺伝子の転写産物とオーバーラップしていた。 また、これらの領域の17では、単一遺伝子のみが含まれていた。 イオンチャネル遺伝子は、KCNK5TRPM8のみであった。 一方、PHACTR1、TGFBR2、LRP1、PRDM16、RNF213、JAG1、HEY2、GJA1、ARMS2は血管疾患との関連性が以前に指摘されたことがあり、 MRVI1、GJA1、SLC24A4、NRP1は血管平滑筋収縮性や血管トーヌス調節への関与が示されている。 さらに、REST、GJA1、YAP1、PRDM16、LRP1、MRVI1は一酸化窒素シグナルや酸化ストレスとの関連性が指摘されている。 また、今回同定された遺伝子の発現は、中枢神経系や血管など様々な部位で確認されている。 さらに、前兆のない片頭痛 (MO)と前兆のある片頭痛 (MA)に分類した上での解析も行われたが、 MOに対しては7つの遺伝子座 (TSPAN2, TRPM8, PHACTR1, FHL5, ASTN2, FGF6, LRP1)が有意な相関を示したが、MAに有意に関連する遺伝子座は見出せなかった。 SNPが遺伝子機能に与える影響に関しては、RNF213, PLCE1, MRV1に関してはエクソン領域のミスセンス遺伝子多型が生じる可能性が確認されたが、 他の遺伝子ではイントロン領域あるいは遺伝子間のSNPであるため、遺伝子産物であるタンパク質の構造変化というよりは遺伝子発現に影響していると推察された。 なお、今回同定された遺伝子の多くは血管系と消化管で発現しており、エンリッチメント解析では主として血管機能に関する生物学的機能の重要性が指摘された。

 

【結論・コメント】
 今回のメタアナリシスによって片頭痛発症に関与すると考えられる44のSNPと38の遺伝子座が同定された。 既に行われたGWASで明らかになった疾患感受性遺伝子座の重要性が再確認された一方で、新規の遺伝子座が同定されたことは今後の片頭痛研究に大きな影響を与えるものと考えられる。 今回の結果は、片頭痛病態における血管異常の関与を示唆するものとなった。 片頭痛の真の病態の座は血管か神経かという古くから行われている論争は、いまだ決着を見ていないが、本研究の結果は圧倒的に前者を支持するようにみえる。 しかし、今回の結果は慎重に解釈するべきという考えもある。 血管に関する生物学研究は非常に進んでいるため、多くの遺伝子の関与や様々な遺伝子産物の機能が既に同定されている。 従って、エンリッチメント解析などを行う際に、情報が多いために遺伝子産物には血管機能に関するアノテーションが多く付与される傾向がある。 それに比較すると、神経系の機能に関する情報は乏しいのが現状である。 つまり、一見すると本研究の結果は血管系の関与を重要視するものになったが、神経系の関与を否定する結果ではないと解釈されるべきであろう。 実際に、三叉神経節ニューロンに発現しているTRPM8はこれまで行われた研究と同様、今回のメタアナリシスでも有意な関連性が確認されている。 なお、今回の研究に関連した内容は、本論文のlast authorであるAarno Palotie先生が本年4月5日のNeurology (American Academy of Neurologyの機関誌)のPodcastにおいて論じられている。 興味のある方は参照されたい。 また、今回MAのみを対象にしたサブ解析では明らかな関連性を示す遺伝子座が確認できなかった。これはサンプル数の不足が原因であると考察されている。