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月経関連片頭痛患者の三叉神経血管反応性の周期性変化に認められる異常

Ibrahimi K, et al. Reduced trigeminovascular cyclicity in patients with menstrually related migraine. Neurology 2015;84:125-131.

 

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】
女性の片頭痛の有病率は男性の2倍以上に達する。月経前後に発作が頻発する月経関連片頭痛 (menstrually related migraine: MRM)は女性特有の病型であり一般に難治性である。エストロゲン離脱は片頭痛発作の誘因として知られているため、エストロゲンは片頭痛病態で重要な役割を担っていると考えられている。片頭痛発作時には、三叉神経血管系が活性化され、カルシトニン遺伝子関連ペプチド (calcitonin gene-related peptide: CGRP)が放出されることが知られている。CGRPは頭痛発現自体に大きな役割を果たしていると考えられているが、片頭痛病態におけるエストロゲンとCGRPとの正確な関連性は現時点においても明らかにされていない。CGRPには血管拡張作用があるため、血管拡張の程度を観察することによって、CGRPの作用を定量的に測定することが可能である。本研究では、CGRPで誘発される前額部の皮膚血管拡張作用に月経周期がどのような影響を与えるかについて検討している。さらに、閉経前の健常者・閉経後の健常者・MRM患者で得られた皮膚血流変化のデータ比較も行われている。

 

【方法・結果】
CGRPによる血管拡張は、前額部の皮膚血管で計測した。CGRPの放出は、前額部に置いた電極で直接電気刺激を行って誘発する電気刺激とイオントフォレーシス (iontophoresis)によってカプサイシンを前額部皮膚に局所投与するという2つの方法で誘発した。カプサイシンはTRPV1 (transient receptor potential vanilloid subfamily, member 1)の作動薬であり、投与濃度は0.06 mg/mlと6.0 mg/mlに設定した。これに加えて、利き手でない側の上腕に200 mmHgのカフ圧を加えた後に開放することにより得られた血管閉塞後の反応性血流増加 (postocclusive reactive hyperemia: PORH)の測定と、唾液中のCGRP濃度および血中エストラジオールとプロゲステロンの定量も併せて施行した。対象はICHD-3βのMRMの診断基準に合致する22名、健常対照者20名、閉経後の女性22名とした。健常対照者では月経周期第1~2日において両濃度のカプサイシン投与後の皮膚血流増加は第19~21日 (黄体期)に比較して有意に上昇していた。しかし、MRM患者では、両時期の間で有意な変化を認めず、両時期間の0.06 mg/mlカプサイシンに対する皮膚血流の変化量は、健常対照者ではMRM患者に比較して有意に高値であった (47 ± 20 AU vs -6 ± 24 AU, p = 0.040)。また、閉経後の女性では、カプサイシン投与後の皮膚血流変化は閉経前の女性に比較して低値であった。一方、電気刺激後の皮膚血流変化に関しては、いずれの群においても両時期間で有意な変化は観察されず、特に閉経後の女性での変化量が小さかった。血中エストラジオール濃度は、月経第19~21日において、MRM患者では健常対照者に比較して有意に低値を示したが (52 ± 4 pg/ml vs 75 ± 8 pg/ml)、月経第1~2日では両群間に有意差は認めなかった。また、血清プロゲステロンの濃度は、いずれの月経時期においてもMRM患者と健常対照者の間に明らかな差は認めなかった。PORHの程度や唾液中のCGRP濃度に関しても、いずれの月経時期においてもMRM患者と健常対照者の間に明らかな差は認めなかった。

 

【結論・コメント】
本研究による新知見は、健常者で認められる月経第1~2日におけるカプサイシン (0.06 mg/ml)に対する皮膚血流変化の増大が、MRM患者では消失していることが明らかにされた点にある。さらに、皮膚血流変化の変動性は電気刺激で観察さられなかったことから、CGRPによる血管拡張性の変動性出現にTRPV1の機能変化が関係している可能性が指摘できる。本研究のデータをどのように解釈すべきであろうか?片頭痛発作時にはCGRPが三叉神経終末から放出されると考えられている。月経第1~2日は発作が頻発する時期なので、三叉神経終末におけるCGRPに関しては、①放出されやすくなっている。あるいは、②既に放出されて枯渇気味になっている。という2つの状況が考えられる。本研究の結果は②を支持するものと思われる。電気刺激時の皮膚血管拡張に関してMRM患者と健常対照者との間に差が認められなかった理由に関しては、電気刺激がCGRP以外の血管拡張因子の放出も引き起こしているからではないかと考察されている。また、月経関連片頭痛は血中エストロゲンの減少が引き金になると考えられているが、MRM患者では月経第19~21日の黄体期において健常対照者に比較して血中エストラジオール濃度が有意に低値であった。したがって、月経に伴うエストラジオール濃度の減少カーブは健常対照者に比較して鈍化していたと考えられる。それにも関わらず、片頭痛が誘発されやすいのは、MRM患者では①エストラジオール濃度変動に対して過敏性を獲得している。②適応反応としてエストラジオール産生のレベルが低めにリセットされている。などの可能性が考えられる。さらに、エストロゲンはTRPV1発現レベルの調節にも関与していることから、MRM患者で観察されたカプサイシン反応性とエストラジオール濃度変化の関連性にも興味がもたれる。