日本頭痛学会

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片頭痛発作の症状軽減には薬の作用と共に医師が患者に与える情報が重要?

Kam-Hansen S, et al. Altered placebo and drug labeling changes the outcome of episodic migraine attacks. Sci Transl Med 2014;6:218ra5.DOI:10.1126/scitranslmed.3006175

 

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景・目的】
プラセボと実薬の効果は、投与された患者の期待度や医師が患者に与えた情報によって影響を受けることが知られている。日常臨床においては、医師が実薬であると言いながらプラセボを投与して、患者が症状軽減を示すかどうかを観察することはヒステリーの鑑別に利用されることがある。 片頭痛患者を対象にした臨床研究では、プラセボ投与群で頭痛軽減が認められることがあるため、患者側の期待が片頭痛症状にも少なからぬ影響を及ぼすことはよく知られている。本研究では、患者に様々な期待度を抱かせることによって、プラセボとトリプタンが片頭痛発作に示す効果がどのように変化するかを前方視的に検討している。

 

【方法・結果】

発作性片頭痛 (episodic migraine)の患者を対象にした。最初に、無治療での発作を経験してもらい、その際の疼痛スコアの推移を記録した。その後、プラセボとリザトリプタンを、「実薬 (マクサルト®)」、「プラセボ」、 「実薬あるいはプラセボ」との情報を与えて (ラベリングをして)ランダムな順番で投与した (randomized 2 × 3 within-subjects expanded “balanced placebo design”)。そして、頭痛開始後30分時点での疼痛スコア (0~10, 0: 疼痛なし, 10: 最大の疼痛)をベースラインとして記録してもらった後に、与えた錠剤を服用させた。続いて、頭痛発生後2.5時間での疼痛スコアを記録してもらい、ベースラインとの差を一次評価項目として測定した。本研究では、最終的に66名の患者が解析対象になった。そのうち、51名は7回すべての片頭痛発作に関して完全なスコアを記録したが、残り15名では一部にデータ欠損が認められた。しかし、後者の群では頭痛ダイアリーの記録から一部のデータを補完することが可能であったため、最終的に対象患者群から453回分の発作のデータを完全に得ることができた。これらの患者における発作回数の中央値は月4回で、25%の症例で発作予防薬が用いられていた。プラセボとリザトリプタンは共に、どのような情報が与えられていても (ラベリングの種類に関わらず)、無治療の時に比較して有意に疼痛スコアの低下をもたらした。また、与えられた錠剤のラベリングと治療薬の種類 (プラセボか実薬か)との間に有意な相互作用は観察されなかった (p =0.37 )。 「プラセボ」とラベルされた錠剤では26.1% (95%信頼区間: 18.2~33.2%) の疼痛スコアの低下が認められた。「実薬あるいはプラセボ」とラベルされた錠剤では40.1% (95%信頼区間: 32.1~47.0%)、「実薬」とラベルされた錠剤では39.5% (95%信頼区間: 41.5~53.0%)の低下が観察された。一方、実際にリザトリプタンが投与された患者では47.6% (95%信頼区間: 41.5~53.0%)、実際にプラセボが投与された患者では20.7% (95%信頼区間: 14.3~26.7%)のスコア低下が認められた。「プラセボ」とラベルされていた状況において、プラセボはリザトリプタンの60.0%に相当する症状改善効果を示した。また、プラセボがリザトリプタンと説明されて投与された場合でも、同じ状況でリザトリプタンが示した効果の59.8%に及ぶ症状改善効果を発揮していたことが確認された。さらに、「プラセボとして投与されたリザトリプタン」と「リザトリプタンとして投与されたプラセボ」は、ほぼ同様の効果を示していた。二次評価項目として錠剤投与2時間後の頭痛消失率が設定された。マクサルトが実際に投与された患者で25.5% (95%信頼区間: 17.2~36.0%)、プラセボが実際に投与されていた患者で6.6% (95%信頼区間: 3.4~12.2%)であった。また、無治療時と比較して、プラセボとしてプラセボが (オープンラベルで)投与された際の頭痛消失率には有意差が認められなかった (0.7% vs. 5.7%)。治療効果比 (リザトリプタンとプラセボの効果差)は、「プラセボ」とラベルされた際に8.8%、「実薬あるいはプラセボ」とラベルされた際に26.6%、「実薬」とラベルされた際に24.6%であった。

 

【結論】

本研究の最も重要な所見は、錠剤投与による片頭痛発作の疼痛軽減効果は医師が患者に与える情報によって大きく影響をうけることが実証されたことである。プラセボをリザトリプタンと言われて服用すると症状が軽減する現象では、患者側の期待度が大きく作用したと解釈できるが、プラセボをオープンラベルで服用してもある程度の症状軽減効果を示した点は、錠剤を服用するという一種の儀式に治療的な意味があることを示唆しており興味深い。片頭痛治療においては、薬を処方するということ自身に意味があると思われる。

 

【解釈】

薬剤の片頭痛発作に対する治療効果が、医師から与えられる暗示により少なからぬ影響を受けることは、日常臨床に大変役立つ情報であるといえる。例えば、重症例ではトリプタンを処方する際に、効果を強調して説明すると薬効が大きくなることが考えられる。その一方で、片頭痛発作治療薬の臨床研究を行う際には、プラセボ群で予想を超えた薬効が出てしまうことで、実薬との有意差が出にくくなる危険性を孕んでいることを本研究の結果は裏付けていると思われる。