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GWASのメタアナリシスによる片頭痛疾患感受性遺伝子座の同定

Anttila V, et al. Genome-wide meta-analysis identifies new susceptibility loci for migraine. Nat Genet 2013;45:912-917.

 

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】
これまで複数のゲノムワイド関連研究 (genome-wide association study: GWAS)が行われ、片頭痛の疾患感受性遺伝子座が同定されてきたが、一般人口を対象にした研究があったかと思えば、頭痛外来通院患者を対象にした研究があったり、前兆のない片頭痛症例のみを検討をした研究であったりと研究対象の不統一性が問題点として指摘されていた。本研究では、これまで行われた29のGWASで収集されたサンプルの解析結果についてメタアナリシスを行って片頭痛の疾患感受性遺伝子座の同定を行っている。

 

【方法・結果】

29のGWASに登録された23285名の片頭痛症例を対象とした。対照群の人数は95425名であった。これら全サンプルを対象にして行った解析に加えて、ICHD-IIの前兆のないあるいは前兆のある片頭痛の診断基準を満たす患者群と頭痛外来ベースで集められた患者群 (重症者が多く含まれていると予想される)に限定したサブ解析も行った。その結果、12の遺伝子座に存在する142のSNP (single nucleotide polymorphism)が片頭痛発症に有意に関連していることが明らかとなった。最も強い関連を示したSNPは12q13のLRP1の遺伝子座に存在するrs11172113であった。また、AJAP1近傍・TSPAN2近傍・FHL5内・C7orf10内・MMP16近傍に新規の関連SNPが同定された。AJAP1は脳内で発現されており、腫瘍浸潤やメタロプロテイナーゼ活性の調節に関わるタンパク質である。MMP16は細胞外マトリックスの分解に関与するマトリックスメタロプロテイナーゼ (MMP)であり、TSPAN2にはMMP活性を調節する機能があるため、上記遺伝子の遺伝子産物間には部分的ではあるものの機能的関連性が存在することが示された。また、TGFBR2近傍に存在するrs6790925とASTN2内に存在するrs6478241の各SNPは、頭痛外来患者に限定したサブ解析で有意な関連性が示されたことから、片頭痛の重症度と関係している可能性が指摘された。なお、片頭痛との関連性が既に報告されているPRDM16MEF2DTRPM8などの各遺伝子内に存在する7つのSNPに関しては、今回のメタアナリシスによっても有意な関連性の存在が確認された。本メタアナリシスでは、片頭痛疾患感受性遺伝子座におけるexpression quantitative trait locus (eQTL)検索も行われた。eQTLとは、ある組織において特定の遺伝子由来のmRNAや蛋白質の発現量を規定している遺伝子座のことであり、発現量が規定されている遺伝子とeQTLは近接して存在することもあれば、離れて存在することもある。ヒト前頭葉組織の転写産物について解析すると、第1染色体のMEF2D遺伝子近傍のSNPであるrs12136718がAPOA1BP遺伝子に対するeQTLであることが確認された。APOA1BPは様々な細胞に発現しており、コレステロールを細胞外へ排出する際に機能する蛋白質である。本メタアナリシスで同定された遺伝子座の近傍において、前頭葉および小脳組織の転写産物について解析したところ、rs12146718を含めて5つのeQTLの存在が明らかとなった。

 

【結論】

本研究で得られた重要な知見としては、既報告の遺伝子座について片頭痛発症との有意な関連性が再現されたことに加えて、新たな5つの遺伝子座が同定されたことがあげられる。その近傍にある遺伝子の遺伝子産物には様々な機能が明らかとなっているが、片頭痛の病態との関連性が不明であるものも多く含まれているため、今後のさらなる研究の進展が望まれる。また、今回同定された遺伝子座の近傍にはAPOA1BPなどの遺伝子に対するeQTLの存在も明らかになった。GWASによって遺伝子座が同定されても、実際に病態に関連する遺伝子はその近傍に存在しない可能性があることは常に念頭に置く必要はある。しかし、今回のeQTL検索は片頭痛の病態とそれほど関連性の高くない前頭葉と小脳の転写産物を対象に行われているため、得られたデータを慎重に解釈する必要があると思われる。