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TRPV1発現ニューロンの新規機能喪失モデルにおける表現型

Brenneis C, et al. Phenotyping the function of TRPV1-expressing sensory neurons by targeted axonal silencing. J Neurosci 2013;33:315-326.

 

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景・目的】
TRPV1 (transient receptor potential vanilloid subfamily member 1)は感覚ニューロンに豊富に存在し、侵害受容器に加えられた侵害性刺激を疼痛シグナルに変換する重要なカチオンチャネルである。主に、42℃以上で発生する熱疼痛刺激の受容に関与するが、その正確な機能には未だ不明な点が残されている。薬理学的にTRPV1を機能喪失させたモデルでは、高温と寒冷刺激による侵害刺激には不応となるが、触覚および機械刺激による疼痛を感知する機能は正常に保たれるという報告がある。他方、TRPV1が発現している無髄線維機能を遺伝子操作によって喪失させたマウスでは侵害性機械刺激に対する感受性が低下し、熱疼痛と寒冷疼痛に対する感受性は変化がなかったといったようにデータの一貫性が得られていない。その1つの原因としては、感覚機能は代償性機転が働きやすいことが知られているため、従来のアプローチでは様々な付加的な要因が加わって結果の解釈が困難になっていることが考えられている。本研究では、新しい薬理学的手法で迅速かつ選択的にTRPV1発現感覚ニューロンの電気活動を抑制する手法を用いてTRPV1発現ニューロンの機能解析を行っている。

 

【方法・結果】

QX-314は局所麻酔のリドカインの誘導体であるが、細胞内からのみナトリウムチャネルを遮断することが可能である。QX-314をTRPV1の作動薬であるカプサイシンと同時投与することで、TRPV1開口時に細胞内に入って選択的にTRPV1発現ニューロンの機能を阻害するというのが本研究の実験手法の基本的原理である。実際に、QX-314とカプサイシンの同時投与によって培養細胞 (Chinese hamster ovary細胞)内でQX-314濃度上昇が起きることが細胞溶解液の液体クロマトグラフィーと質量スペクトロメトリーによる分析で実証された。また、細胞内半減期は約72分であり、効果に持続性があることも確認された。さらに、培養後根神経節ニューロンに電位固定法を適応して、QX-314とカプサイシンがナトリウムチャネルを阻害し、その効果は10秒以内に発現していることも確認された。ラット坐骨神経にQX-314とカプサイシンを作用させると、C線維 (疼痛シグナルを伝える無髄線維)の複合活動電位の振幅の低下と出現潜時延長が持続的かつ進行性に認められた。そのような変化はTRPV1ノックアウトマウスでは認められないことも確認された。一方、TRPV1が発現していないA線維の複合活動電位にはQX-314とカプサイシンの灌流は有意な影響を与えなかった。行動解析では、坐骨神経にQX-314とカプサイシンを作用させると、測定にカプサイシン刺激を行っても疼痛を反映する行動 (leg liftとlicking)は抑制されていた。また、熱刺激とつまみ (pinching)による疼痛も抑制されていたが、針刺激 (pin-pricking)による疼痛と軽度の触覚には影響が見られなかった。一方、足底にFreundアジュバントを用いて炎症を誘導した上で、様々な刺激を行ったところ、熱刺激とつまみによる疼痛刺激だけでなく、von Freyによる機械的刺激や寒冷刺激による疼痛もQX-314とカプサイシンによって抑制されていることが観察された。

 

【結論】

QX-314とカプサイシンの同時投与は、in vitroだけでなくin vivoの実験系においてもTRPV1発現ニューロンの電気活動を迅速かつ持続的に抑制することが明らかとなった。また、TRPV1発現ニューロンは特に炎症存在下において様々な侵害刺激の受容に重要な役割を果たしていることが示唆された。