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片頭痛患者の脳構造と疼痛プロセシングに関する男女差

Maleki N, et al. Her versus his migraine: multiple sex differences in brain function and structure. Brain 2012;135:2546-2559.

 

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】
一般に疼痛疾患の頻度は女性で高く、その一例として、女性の片頭痛有病率は男性の約2倍であることが知られている。最近、機能画像を用いて健常者において痛みのプロセシングに男女差があることが報告されてきているが、片頭痛患者についてはこれまで詳しく解析されたことはない。本研究では、高磁場MRIを用いて、脳構造・疼痛刺激に対する脳の活性化・脳部位の機能的結合性に関する男女差の有無を片頭痛患者で検討している。


【方法・結果】

健常者と片頭痛患者各22名を対象とした。片頭痛患者は男女各11名で、年齢・発症年齢・片頭痛の臨床症状などは両群間で有意差がないようにマッチングされていた。片頭痛の診断はICHD-IIの診断基準に従い、Beck Depression Inventory IIスコア25未満、病期3年以上で本研究での画像検査前72時間および検査後24時間に片頭痛発作を認めなかった者のみを対象とした。片頭痛患者では、男女の間で頭痛の強度に有意差はなかったものの、頭痛を不快に感じる程度は女性で有意に高かった。頭部3T MRIによる脳構造解析で、大脳皮質の厚さ (cortical thickness)を比較検討したところ、健常者においては女性の右吻側中前頭回が男性に比較して有意に厚かった (p<0.002)。片頭痛患者では、左上前頭回 (p<0.0001)・右尾側中前頭回 (p<0.004)・右縁上回 (p<0.0001)・左 (p<0.036)および右 (p<0.0003)中心前回・左島皮質 (p<0.017)・左 (p<0.0004)および右 (p<0.0001)楔前部が、男性に比較して女性で有意に厚かった。健常者と片頭痛患者を比較すると、楔前部 (p<0.001)と後部島皮質 (p<0.019)が片頭痛患者で有意に厚かった。同一性別内での比較では、男性健常者と男性片頭痛患者の間に有意な大脳皮質の厚さの違いは認められなかったが、女性片頭痛患者では、両側楔前部 (: p<0.015, : p<0.0001)・後部島皮質 (: p<0.007, : p<0.018)・左上側頭回 (p<0.011)・右下側頭回 (p<0.007)が健常者に比べて有意に厚かった。また、脳各部位の容積差の検討では、男性片頭痛患者で海馬傍回が男性健常者に比較して有意に (p<0.017)小さかった。

 続いて、対象者の熱疼痛温度閾値を測定し、それより1℃高い温度負荷を行った際の脳各部位の活性化の程度をBOLD (blood oxygenation level-dependent )反応を用いて評価した (片頭痛がよく起こる側の手背で刺激)。片頭痛患者では、女性で両側尾状核・対側上側頭回・同側上前頭回・対側楔前部・対側後部帯状回・対側三叉神経核 (主知覚核・脊髄路核)の各部位においてBOLD反応の上昇が、男性に比較して有意に大きかった。一方、男性では女性に比較して、両側島皮質と対側一次感覚野と対側被殻においてBOLD反応の上昇が有意に大きかった。対側側坐核・対側扁桃体・両側海馬では刺激によってBOLD反応は低下を示した。男女差については、扁桃体と海馬での低下の程度が女性で高かったが、対側側坐核の低下は男性で顕著であった。女性の片頭痛患者と健常者との比較では、傍帯状回・同側上前頭回・対側海馬・対側海馬傍回・対側中心前回で有意な群間差が認められた。

 脳部位間の結合性の検討では、女性片頭痛患者の島皮質と一次感覚野・後部帯状回・楔前部・側頭極の各部位との結合性低下が認められた一方で、楔前部と扁桃体と一次感覚野との結合性が高いことが明らかとなった。

 

【考察】

構造的な観点からは、女性片頭痛患者では島皮質および楔前部の皮質が厚いこと、男性患者では海馬傍回の容積が大きいことがそれぞれの特徴であることが本研究によって指摘された。機能的な観点からは、熱疼痛刺激に際して、女性片頭痛患者で扁桃体や海馬傍回などで強い活性化が認められたことは、頭痛に対する不快度が男性に比較して高いというデータと符合する結果と解釈できる。構造的には皮質肥厚が認められるにも関わらず、島皮質では、熱疼痛刺激による活性化が男性患者に比較して低く、かつ一次感覚野をはじめとした感覚系との結合性が低下していることから、機能的にはむしろ低下していることが示唆される。今回指摘された男女間の脳構造の相違が、機能的に何を意味するのかについては今後さらに検討が必要であろう。