日本頭痛学会

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前兆のない片頭痛患者を対象にしたゲノムワイド関連研究データ

Freilinger T, et al. Genome-wide association analysis identifies susceptibility loci for migraine without aura. Nature Genet 2012; doi:10.1038/ng.2307

 

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】
片頭痛発症には遺伝的要因の関与があると考えられており、すでに前兆のある片頭痛 (MWA)については、clinic-basedで収集された遺伝子サンプルを用いたゲノムワイド関連研究 (genome-wide association study: GWAS)International Headache Genome Consortium (IHGC)において第8染色体長腕の遺伝子座8q22に疾患感受性遺伝子の存在が同定され、その候補遺伝子はMTHDであることが報告されている。 さらに、Women’s Genome Health Study (WGHS)においてpopulation-basedで収集されたゲノムを用いたGWASでは、PRDM16・LRP1・TRPM8各遺伝子上あるいはその近傍に片頭痛発症との関連性が実証されている。これらの研究において、個々の遺伝子座と発症との関連性は必ずしも強くないものの、片頭痛病態を考える上で大きなヒントを与える結果も出ているため、さらなるGWASの成果に期待が寄せられている。本研究では、ドイツとオランダで収集された前兆のない片頭痛 (MOA)患者ゲノムについてGWASを行い疾患感受性遺伝子の同定を試みている。

【方法・結果】

ドイツとオランダの頭痛センターで集められた2326名分のMOA患者ゲノムと対照群として年齢・性別などがマッチングされた検体が用いられた。Discovery data setでは、1q22に強い (p < 5×10-8)関連性が認められ、他に11の遺伝子座にp < 5×10-5のレベルで弱い関連性が確認された。これらの12遺伝子座に存在する18のSNP関して再現性を確認する目的で、ヨーロッパで得られた複数の別個の収集ゲノム (2508の患者サンプルと2652の対照サンプル)を用いても解析が施行された (replication stage)。その中で、6つの遺伝子座に存在する8つのSNPで有意な (p < 0.05)関連性が確認され、さらにそのうちの5つのSNPでdiscovery cohortとreplication cohortをあわせてメタアナリシスを行っても関連性が証明された。最終的に、1q22・3p24・6p24・9q33との関連について再現性が確認されたが、6p24と9q33に関しては再現性が他の2つに比較して低かった。また、以前の研究で片頭痛との関連性が報告されている1p36・2q37・8q22・12q13の遺伝子座に属するSNPについて本研究のreplication cohortでの関連性が調べられたが、2q37と12q13については再現性が得られなかった。また、本研究で確認された関連性には性別は有意な影響を与えていないことも明らかとなった。1q22においては、discovery stageで6つのSNPとの関連性についてp < 5×10-8と有意であったが、そのうちの2つのSNPであるrs1050316とrs3790455がreplication stageでも有意な関連性を示していることが確認された。これらの最も強い関連性を示したSNPはMEF2D遺伝子上に存在していたが、この遺伝子はmyocyte enhancer factor 2D (MEF2D)をコードしており、MEF2Dは新生ニューロンの生存性を維持することでニューロンの分化を調節したり、興奮性シナプスの数の調整を行う働きがあることが知られている。したがって、片頭痛ではMEF2Dの機能異常により神経活動の過興奮が生じているといったような仮説も成り立つ。次に、3p24に存在するrs7640543もメタアナリシスにおいて強い関連性 (P = 1.17×10-9, OR = 1.17)が認められたが、これはTGFBR2 (TGFβ受容体をコードする遺伝子)の約200kb上流に存在する。興味深いことに、TGFBR2変異によって大動脈解離と共に片頭痛性の頭痛を呈することが以前報告されている。6p24に存在するrs9349379は前述のように再現性に問題はあったが、PHACTR1と呼ばれるphosphatase and actin regulator 1をコードする遺伝子に存在する。9p33のrs6478241も同様に再現性確認の段階で問題はあったが、このSNPに対応する遺伝子は現時点で明らかでない (ASTN2が候補ではある)。2q37は過去のGWAS研究 (WGHSとIHGC)で同定された片頭痛との関連性が高い遺伝子座であるが、本研究でも有意な関連性が再現されている。本遺伝子座のrs10166942はTRPM8遺伝子の第1イントロンに存在する。TRPM8はメントールに反応するイオンチャネルで皮膚アロディニアの発生に関係すると考えられている。12q13も以前に片頭痛と関連性が示された遺伝子座であるが、rs11172113はLRP1というlipoprotein receptor-related protein 1 (LRP1)をコードする遺伝子の第1イントロンに存在し、LRP1はニューロンや血管に発現していることが知られている。

 

【結論】

本研究はMOAのみを対象にしたGWASの貴重なデータを提供し、MEF2Dに特に強い関連性を確認したことでMOAの病態研究に新たな知見をもたらしたと評価できる。また、ここ数年で発表されてきた片頭痛のGWASのデータと合わせて考えると、前兆の有無に関わらず特にTRPM8が片頭痛の病態に深く関与していることが予想される。一方、MWAでは関連性が指摘されたものの今回の研究では有意な関連性が確認できなかった遺伝子座もあることから、MWAとMOAは遺伝学的には異なる背景を示す疾患であることが示唆された。