日本頭痛学会

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一般集団を対象にしたゲノムワイド関連解析によって同定された3つの片頭痛疾患感受性遺伝子

Chasman DI, et al. Genome-wide association study reveals three susceptibility loci for common migraine in the general population. Nat Genet 2011;43:695-699.

 

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】
 片頭痛患者には、片頭痛の家族歴を有する者が多いことから、発症に遺伝的因子が関与する可能性が濃厚と考えられている。また、前兆や光過敏性の有無や頭痛のパターンなどは個々の症例で異なり、一口に片頭痛と言っても、その臨床症状はかなり多彩である。そのような背景から、発症に複数の疾患感受性遺伝子が関係している可能性が予測される。本研究では、アメリカおよびヨーロッパ各国の一般集団から収集したDNAサンプルを用いてゲノムワイド関連解析 (genome-wide association study: GWAS)を行い、3つの疾患感受性遺伝子が同定された。


【方法・結果】

 研究の第一段階として、Women’s Genome Health Study (WGHS)のDNAサンプルを対象に解析を行った。WGHSの登録者は合計23200人の女性ヘルスケア従事者であり、全員がヨーロッパ人を祖先とするコホートである。本コホートにおいては、アンケート結果から片頭痛ありと判定された者が5122名 (22%)存在した。片頭痛を有する者は、有しない者に比較して有意に若く (平均年齢: 51.9歳 vs. 53.3歳)、閉経後の女性ホルモン使用者が多く、毎日アルコールを摂取する者が少なかった。当初のゲノム関連解析で、P値を5×10-8未満に設定したところ、有意な関連性を示すSNP(single nucleotide polymorphism)が検出されなかったため、条件を緩和して解析を行った結果、7つのSNPが候補として浮上した。なお、これら全てのSNPに関しては、本コホートにおいて非片頭痛性頭痛との相関性は認められなかった。続いて、データの再現性を探るため、これら7つのSNPについて、ヨーロッパのコホートであるDutch GeneticEpidemiology of Migraine Study (GEM)・German Study of Health in Pomerania (SHIP)・International Headache Genetics Consortium (IHGC)を用いて解析を行っている。その結果、最終的にrs2651899・rs10166942・rs11171113の3つのSNPに再現性が確認された。rs2651899は1p36.32に位置し、PRDM16遺伝子の第1イントロンに存在する。PRDM16は骨髄異型性症候群や急性骨髄性白血病の染色体転座の同定を通じて発見された遺伝子で、脂肪組織形成に関与することが明らかにされたが、片頭痛の病態との直接的な関連性は現時点では見出されていない。一方、rs10166942は2q37.1に位置し、TRPM8遺伝子の転写開始部位から950 bp5’側に存在する。この遺伝子産物TRPM8 (transient receptor potential M subfamily member 8)は、寒冷やメントールによって活性化されるイオンチャネルである。感覚ニューロンに発現しており、寒冷による疼痛の発生に関与している。最後のrs11171113は12q13.3に位置しており、LRP1遺伝子に第1イントロンに存在する。LRP1は脳組織や血管に発現しており、リポプロテイン受容体遺伝子ファミリーに属し、シナプス伝達の調節に関与している。そして、NMDA型グルタミン酸受容体と共存していることも知られている。上記3つのSNPの関連性は、前兆のある片頭痛でも前兆のない片頭痛でもほぼ等しく認められた。また、rs10166942に関しては、女性患者においてより強い関連性が確認された。

 

【考察】

 本研究は、一般集団からなるコホートの解析を端緒にして3つの片頭痛関連遺伝子を同定し、そのうち2つ (TRPM8LRP1)は痛覚やグルタミン酸受容体機能と関連性があるため、片頭痛の病態解明に寄与する可能性がある。また、今回同定されたSNPは前兆の有無に関わらず片頭痛と関連性を示していたことから、前兆のある片頭痛と前兆のない片頭痛の遺伝学的異常に共通性があることを示唆している。一方、IHGCによって片頭痛と関連性が高いと報告された8q22.1に位置するrs183574との関連性は本研究では検出されなかった (以前このコーナーでも紹介したNat Genet 2010;42:869-873)。IHGCが、外来患者を中心に集められたDNAサンプルを用いていたという相違点が影響して可能性がある。現在も、片頭痛に関する大規模なGWASが進行中であり、今後のさらなる研究の発展が期待される。