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三叉神経節における侵害受容性ニューロンとsatellite glial cellとの連係プレー

Ceruti S, et al. Calcitonin gene-related peptide-mediated enhancement of purinergic neuron/glia communication by the algogenic factor bradykinin in mouse trigeminal ganglia from wild-type and R192Q CaV2.1 knock-in mice: Implications for basic mechanisms of migraine pain. J Neurosci 2011;31:3638-3649.

 

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】
 三叉神経節と後根神経節においては、感覚神経一次ニューロンの周囲にsatellite glial cell (SGC)と呼ばれるグリア系細胞が存在し、両者間ではギャップ・ジャンクション形成や液性因子によるシグナル授受によって密接な連係が行われ、痛覚機構に重要な役割を果たしていることが知られている。本研究では、三叉神経節ニューロンがカルシトニン遺伝子関連ペプチド (calcitonin gene-related peptide)を介してSGCを活性化しており、かつ家族性片麻痺性片頭痛 (familial hemiplegic migraine: FHM)に関連するカルシウムチャネルCaV2.1の変異によって、このSGC活性化機構が増強されることが報告されている。


【方法・結果】

 C57BL/6Jマウスから三叉神経節の混合培養を調整した。各種細胞が全培養細胞中に占める割合は、ニューロンとSGCがそれぞれ約80%と10%であり、残りは線維芽細胞などであった。ブラジキニンは代表的な疼痛発生物質であり、片頭痛発生にも関与することが示されている。この混合培養では、ブラジキニン受容体 (B1およびB2)の発現がRT-PCRによって確認されたが、ブラジキニンを培養液に加えると主にニューロンでのみ細胞内カルシウム上昇が引き起こされたため、B1とB2はニューロンに局在していると考えられた。また、アデノシン受容体作動薬であるADPとUTPの投与によって、SGCでP2Yアデノシン受容体依存性の細胞内カルシウム上昇が認められたが、これは混合培養をブラジキニンで24時間前処置を行うことにより増強を受けた。ブラジキニンによる増強効果は、CGRP受容体拮抗薬CGRP8-37 によって拮抗されたため、同受容体を介する反応と考えられた。また、ブラジキニンの効果はスマトリプタンによっても阻害された。RT-PCRとカルシウムイメージを用いた解析から、本培養系ではCGRP受容体はSGCにのみ存在することが明らかとなった。次に、SGCの純粋細胞を調整し、アデノシン誘発性細胞内カルシウム上昇に対するブラジキニンとCGRP前投与の影響を比較検討したところ、ブラジキニンは有意な影響を与えなかったものの、CGRPは有意な増強効果を示した。SGC純粋培養では、CGRPを投与するとMAPキナーゼであるERK (extracellular signal-regulated kinase)の活性化が亢進することが確認された。また、ERK阻害薬PD98056の投与によってCGRPによるアデノシン誘発性細胞内カルシウム上昇の増強効果は抑制されたため、SGGのCGRP受容体が刺激されるとERK活性化を介して、P2Yアデノシン受容体機能が増強されると推察された。また、SGCではCGRPの刺激によってIL-12を始めとする様々なサイトカインの放出が誘発されることも示された。FHM1は、P/Q型カルシウムチャネルCaV2.1をコードする遺伝子の変異によって引き起こされる。p.R192QはFHM1患者に認められる変異の1つである。そこで、p.R192Q変異ノックイン (KI)マウスから三叉神経節の混合培養を調整し、野生型マウス由来の混合培養と比較検討された。KIマウスでは、感覚ニューロンからの定常状態およびブラジキニン誘発性のCGRP放出が亢進していた。しかも、SGCにおけるブラジキニンによるアデノシン誘発性細胞内カルシウム上昇の増強効果を呈する細胞数の割合が、野生型に比較して有意に増加していた。

 

【考察】

 本研究では、三叉神経節において感覚ニューロンとSGCの間に新規の連係作用が見いだされた。すなわち、疼痛発生物質であり片頭痛発生にも関連の深い炎症メディエーターでもあるブラジキニンが、CGRP陽性感覚ニューロン (侵害受容性ニューロン)に作用すると、CGRPが放出されて周囲のSGCが刺激を受ける。そして、SGCではERK活性化を介してP2Yアデノシン受容体機能が増強された結果アデノシンの感受性が亢進し、同時に炎症促進性サイトカインの放出が引き起こされる。かくして、SGCは感覚ニューロンの作用によってアデノシン感受性が増すだけでなく、サイトカイン放出を介して感覚ニューロンを活性化し侵害受容を増強するので、結果として双方向性の反応が生じている。また、炎症反応が促進されることでブラジキニンなどの炎症メディエーターの産生がさらに増加することも考えられる。このようにして形成される悪循環はスマトリプタンによって抑制されたことから、本研究の結果は、トリプタンによる片頭痛抑制効果の新たな作用機序を提示したという意味でも評価できる。また、FHM1の病態としては、皮質性拡延性抑制 (cortical spreading depression: CSD)の亢進といった中枢性の異常がこれまで重視されてきたが、本研究によって、三叉神経一次ニューロンとSGCのレベルにおける末梢性の異常の重要性も浮き彫りにされた。