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カリウムチャネルTRESKのドミナントネガティブ変異によって引き起こされる家族性片頭痛

 Lafrenière RG, et al.
 A dominant-negative mutation in the TRESK potassium channel is linked to familial migraine with aura. 

 Nat Med 2010;16:1157-1161.


 

慶應義塾大学神経内科

企画広報委員

 柴田 護

【背景】

Two-pore domainカリウムチャネル (K2P)は、中枢神経系に広範に発現しており、ニューロンの静止膜電位の制御や神経興奮性に関与し、かつ多くの全身麻酔薬の作用点としても知られている。K2Pの一種であるTRESKはGqa受容体刺激による細胞内カルシウム濃度上昇が起こると、カルシニューリンによって直接活性化される。サイクロスポリンなどのカルシニューリン阻害薬は副作用として頭痛を引き起こすことや、TRESKを活性化させるハロタンに皮質性拡延性抑制 (cortical spreading depression: CSD)の阻害作用があることから、TRESKの片頭痛病態への関与が以前から示唆されていた。その遺伝子はKCNK18と呼ばれるが、本研究では片頭痛患者を対象にしてKCNK18遺伝子の全コーディング領域の遺伝子解析を行い、変異の有無を検索した。

 

【方法・結果】

まず、家系的につながりのない110人の片頭痛患者を対象にして遺伝子解析を行い、5つの遺伝子変異を発見した。その中で、対照群では認められなかった変異 (F139WfsX24)は、c.414-415におけるCTの2塩基欠損であり、フレームシフトを来すことで、162アミノ酸からなる正常より短い変異蛋白を生じさせる。さらに、浸透率100%の常染色体優性遺伝を呈する前兆のある片頭痛家系に属する患者で、本変異の存在が確認された。本患者は、視覚性前兆が両側性に起こること以外は典型的な前兆のある片頭痛の臨床像を呈していた。本患者の血縁者の15名のゲノム遺伝子を解析したところ、片頭痛のある全ての者でのみ上記遺伝子変異が確認された。本遺伝子は第10染色体上に存在していたが、第10染色体上の141個のSNP解析を行い、この家系で片頭痛がKCNK18遺伝子の存在する10q25.2-3を含む部位に連鎖していることが確認された。マウスでin situ hybridizationを行ったところ、Kcnk18 mRNAは三叉神経節や背側神経節で胎生15.5日頃より発現が認められ、新生時期に向かって発現レベルの上昇が認められた。特に、侵害受容に関与する小型~中型のニューロンに多く発現していた。また、星状神経節などの交感神経節でも発現が認められた。蛋白レベルでの発現は、脊髄・脳組織に広範に認められた。ヒトの検体では特に三叉神経節ニューロンでの発現が強いことが確認された。以上より、TRESKの片頭痛への関与は濃厚と考えられた。F139WfsX24によって、2番目の膜貫通領域の部分で翻訳が止まった形の短い異常蛋白が作り出されることが予想されるが、この変異蛋白をアフリカツメガエル卵母細胞に発現させると、正常TRESKのチャネル機能が発現レベルに応じて阻害された。つまり、この変異蛋白はドミナントネガティブな作用を持つことが確認された。
 

【結論】

本研究によって、カリウムチャネルTRESKの遺伝子KCNK18のドミナントネガティブ変異を基盤にした家族性片頭痛の家系の存在が確認された。TRESK機能低下は片頭痛を引き起こすものと考えられた。このことは、TRESKの機能を増強することによって、新たな片頭痛治療が行える可能性を示唆しており、大変興味深い研究成果と考えられた。