日本頭痛学会

HOME << 国際頭痛分類 << 慢性片頭痛と薬物乱用頭痛の付録診断基準の追加について

理事長挨拶
topics&information
ニュースレター
学会概要・組織
入会案内
頭痛学会誌
頭痛ガイドライン
国際頭痛分類
医師・医療従事者の方へ
会員専用ページ
一般の方へ
研修医・医学生へ
Link
サイトマップ

国際頭痛分類第2版(ICHD-II)の二次性頭痛診断基準の改訂動向について

竹島多賀夫、間中信也、五十嵐久佳、平田幸一、山根清美、坂井文彦
日本頭痛学会・国際頭痛分類普及委員会(企画・広報委員会)

 

国際頭痛分類と診断基準は、頭痛医療、頭痛研究においてきわめて重要な役割を果たしており、本邦では、国際頭痛分類

第2版日本語版(ICHD-IIJ)1)が広く用いられている。国際頭痛学会の分類委員会から、二次性頭痛の診断基準改訂の方

針と、二次性頭痛の一般診断基準の雛形が ”Proposals for new standardized general diagnostic criteria for the

secondary headaches”と題する論文としてCephalalgiaに掲載された2)。

 

 

本稿では、この論文で述べられている二次性頭痛を含めた、診断基準の改訂動向について解説する。国際頭痛分類は金

科玉条とすべきものではなく、頭痛研究の進歩に伴い改訂されるべきであるが、一方で、現実の医療や研究はこの分類に

立脚して行われているため、頻繁な変更は混乱をもたらす。2004年以降、薬物乱用頭痛(MOH)の初期版3)、改訂版4)、付

録版5)が出され、少なからず混乱の要因となっている。日本語版では翻訳段階で改訂の情報が入手できたので、ICHD-

II1)には改訂版を本文に掲載して、日本頭痛学会誌の特集号として2004年に刊行した。2006年の改訂付録版に関する記述

は解説論文6)として付記することで2007年に刊行された新訂増補日本語版7)に収載されている。しかしながら海外では事

情が異なっており、広く流通している刊行物は初期版で、改定版、付録版は論文として学会誌Cephalalgiaに掲載されてい

るのみである。学会Webサイトで閲覧できるICHD-IIは最新版が掲載されており、印刷物として配布されているものと一致し

ていない。

MOHの診断基準に関して議論されている最も大きな問題点は、2004年の初版、2005年改訂版では「D. 乱用薬物の使用中

止後、2ヵ月以内に頭痛が消失、又は以前のパターンに戻る」ことが要件となっており、急性期治療薬の乱用と頭痛がある

段階では診断が確定しない点である。この問題を回避したものが、2006年の付録診断基準で、薬物中止による確認を不要

としたものである。ICHD-IIでは、この、原因除去による頭痛の消失または改善の要件は、MOHを含めすべての二次性頭痛

の診断基準の原則とされているが、MOH以外の二次性頭痛でも、原因と考えられる状態、疾病の治療が必ずしも可能とは

限らないため、診断が確定できないケースが少なくなかった。これは、研究目的の診断基準としては合理性があるが、日常

臨床では適切とはいえないとの批判があった。この点を解決しようとする動きが今回の新標準化一般診断基準の提案であ

る。以下、論文のポイントを抜粋して示す。本邦からも、新提案基準の検証や、改訂に対するコメントが多くなされることを

期待したい。

 

 

序文:1988年の国際頭痛分類(ICHD-I)8)の発刊は、画期的なことであった。頭痛診断に科学的な疾患分類の概念を導入

し、批判的な吟味を可能とした。その後の診断基準の修正要請や、ICHD-Iの欠点を示す論文が提出され、これらの研究成

果をふまえて2004年にICHD-II3)が刊行された。

 

 頭痛分類委員会は膨大な作業と努力をしてきたが、MOHの診断基準は、その過誤が示されて直ちに改訂され4)、また、

その後、慢性片頭痛の修正とMOHの2度目の修正(付録診断基準)もなされた5)。ICHD-I、ICHD-IIともに二次性頭痛の診

断基準の一般テンプレートが定義されており、各二次性頭痛の診断基準に適用されている。ICHD-IIの二次性頭痛の一般

診断基準(現行版)3)をBox1に示した。ICHD-IIの二次性頭痛の一般診断基準を批判した文献は皆無であるが、治療により

頭痛が消失することを要求している点が弱点であることを、委員会は認識しており、特にMOHの診断基準では、この弱点が

明白であった。

 

 

二次性頭痛の新一般診断基準の必要性の根拠 :二次性頭痛の一般の診断基準を改訂するというアイデアは、

MOHの定義で問題となった過誤から生まれたものである。ICHD-IIの初版、本則改定版では、原因薬物の乱用が中断され

るまでは診断が決定できないため、治療をガイドするための診断が中~長期にわたり不確実な状態をもたらす。

医師は初診時に診断をする必要がある。治療に成功した後に遡及的に診断を確定することは、単なる学術的興味による正

確な診断にすぎない。この問題点の改善は二次性頭痛全般に適用されるべきである。

二次性頭痛の診断基準項目Dは 『頭痛は原因疾患の成功裏の治療または自然寛解により、3ヵ月以内(いくつかの原因

疾患ではもっと短期間)により著明に改善するかあるいは消失する』と記載されており、原因疾患の除去により頭痛が完全

に消失するか、大幅に改善する必要がある。頭痛が治療により消失した後でないと確実に診断できない診断基準は、科学

研究には貢献しうるが、臨床的な目的には適さない。さらに、いくつかの原因疾病は治療不可能であり、頭痛が永続的であ

る場合もある。これに加え、別の問題も存在する。たとえば、慢性髄膜炎後頭痛の診断を行うためには、まず、髄膜炎によ

る急性頭痛の診断がなされなければならない。現在の診断システムでは、髄膜炎による急性頭痛は、その頭痛が消失しな

ければ確定できないため、慢性の頭痛はありえないことになる。

また、急性外傷後頭痛は3ヵ月後には自動的に慢性外傷後頭痛になるが、厳密に統一基準を用いれば、急性外傷後頭痛

は診断できない。これらの事例は、分類委員会で潜在的パラドックスと認識されており、現行のICHD-IIにおいても診断基

準D項の一般基準からの調整がなされている。今回提案する新しい一般診断基準では、すべての二次性頭痛において、「

慢性〇〇後頭痛(chronic post-X headache)」の診断を容易に行うことができ、二次性頭痛の診断にその消失を要件としな

いものである。

「慢性〇〇後頭痛」の一般法則として、原因疾患の治癒または自然寛解後3ヵ月以上持続する頭痛とすることを提案する。

ただし、大部分の「慢性〇〇後頭痛」はエビデンスが乏しいので、付録として掲載し、エビデンスが集積された後に診断基

準本文に導入することにする。また、急性〇〇後頭痛および慢性〇〇後頭痛を区別せず、原因疾患の治癒後の3ヵ月まで

の間は単に『〇〇による頭痛』と呼び、頭痛が3ヵ月以降も続く場合には、『慢性〇〇後頭痛』の用語を適用する。分類委員

会は、各二次性頭痛の変更を2009年中に検討する予定である。各頭痛研究グループが二次性頭痛の発症から経過、臨

床的な記述のデータ集積を前向き調査することを歓迎したい。このようなプロセスにより、10年後に発刊を予定している

ICHD-IIIで、二次性頭痛のより科学的な分類が可能となると考えられる。

 

 

一般診断基準の修正提案:二次性頭痛の新しい一般診断基準の提案をBox2に示した。この提案は国際頭痛学会の分

類委員会のメンバーにより十分に精査がなされて、最終的に委員会で合意したものである。修正のポイントは以下のとおり

である。

基準A:どのようなタイプでもよいが、頭痛が存在する。頭痛の特徴が基礎疾患との因果関係を支持する場合は、基準Cで     適用する。

基準B:大きな変更はないが、『頭痛の原因となることが知られている障害(a disorder known to cause headache)』から『

     科学的に、頭痛が起こりうることが証明されている障害(A disorder scientifically proven to be able to cause

     headache)』と言い換えた。

基準C:因果関係のエビデンスを明示するために、大幅に修正し、5つの下位基準中2つを満たす必要があることとした。

     以前のC項では、頭痛発症時の原因疾患の時間的関係を重視したが、新提案では、頭痛と原因疾患の経時的な関

     係について、C2として悪化を、C3として改善を採用した。C4では、頭痛の典型的特徴が存在すれば、これを記載し、

     C5は、原因であることを示す他の根拠とした。

基準D:頭痛の改善または消失を要件としていたが、これを廃止し、新提案では、その頭痛が他の頭痛診断によって、うまく

     説明できないこととした。例えば、片頭痛は併発した脳腫瘍の進行とともに悪化しうるが、これは脳腫瘍があるという

     精神的ストレスによる可能性がある。このようなケースでは、片頭痛の診断が、脳腫瘍に起因する頭痛という診断よ

     りも適切であるといえるであろう。

 

 

 

頭痛分類法の将来: 標準的な手順では、新提案は検証のためにICHD-IIの付録として位置付けられる。今回の二次性

頭痛の新診断基準の提案も同様に取り扱う。通常、2年以上の期間をかけて充分な検証が行われた後に、付録から本文に

組み入れが可能である。しかしながら、ICHD-IIの多くの修正が個別の論文4, 5)としてバラバラに提出されている状況であ

り、この状況を長期間放置することはできない。

慢性片頭痛とMOHの診断基準改訂版はすでに検証がなされ、妥当性が示されており、早急に診断基準本体に組み入れら

れるべきである。従って、分類委員会はICHD-IIの限定的な修正作業を開始し、ICHD-IIRとすることを決定した。

これには、MOHと慢性片頭痛を含む二次性頭痛の新提案が盛り込まれる。新一般基準が具体的にどのように各二次性頭

痛に適用されるかを、頭蓋内腫瘍による頭痛を例として、Box3に示した。

一次性頭痛の診断基準は日常臨床で広く用いられるものであり、10年ないし20年よりも短い期間での変更は避けるべきで

あろう。2010年にICHD-IIRをCephalalgiaの増補として、発行する予定である。これにより、最新の印刷版とインターネット版

の不一致が解消される。一方、これに伴い、ICHD-IIRの世界中の多くの言語への再翻訳と再出版が必要となる。ただし、

ICHD-IIRはその後適切な期間、おそらく10年は変更がなされず、次回の変更はICHD-IIIとして全面的な改訂となるであろう

。ICHD-IIRの本文として、二次性頭痛の一般基準を導入し刊行するまでに、頭痛コミュニティーに対し、この二次性頭痛の

新提案基準の使用と検討を要請する。

 

 

Box 1 General diagnostic criteria for secondary headaches in ICHD-II

ICHD-IIの二次頭痛の一般診断基準(現行の診断基準)

A. Headache with one (or more) of the following (listed) characteristics1,2 and fulfilling criteria C and D

A.頭痛は、以下の(または以下に列挙した)特徴のうち1項目(または複数)を有し、かつC およびDを満たす(注1、2)

B. Another disorder known to be able to cause headache has been demonstrated

B.他の疾患が、頭痛の原因となることが証明されている

C. Headache occurs in close temporal relation to the disorder and/or there is other evidence of a causal relationship

C.頭痛が他の疾患と時期的に一致して起こる、または、頭痛が他の疾患と因果関係を示す他の証拠が存在する(あるい

  はその両方の場合)

D. Headache is greatly reduced or resolves within 3 months (this may be shorter for some disorders) after successful

  treatment or spontaneous remissions of the causative disorder3

D.頭痛は原因疾患の治療成功または自然寛解後、3ヵ月以内に(これより短期間になる疾患もある)大幅に軽減または消  失する(注3)

注1、2、3: 省略 (文献1, 7)を参照)

 

 

Box 2 Proposed general diagnostic criteria for secondary headaches

二次頭痛の一般診断基準の改訂提案

A. Headache of any type, fulfilling criteria C and D
  基準CとDを満たす頭痛がある

B. Another disorder scientifically documented to be able to cause headache has been diagnosed

  科学的に、頭痛を引き起こしうることが示されている他の疾患が診断されている(注1)。

C. Evidence of causation shown by at least two of the following:

以下のうちの少なくとも2つにより、原因とする根拠が示される(注2

1. Headache has occurred in temporal rela­tion to the onset of the presumed causative disorder

1. 頭痛の発現は、推定される原因疾患の発症と時間的関係が一致する。

2. Headache has occurred or has significantly worsened in temporal relation to worsen­ing of the presumed causative

  disorder

2. 頭痛の発現または有意な増悪は、推定される原因疾患の悪化と、時間的関係が一致する。

 

3. Headache has improved in temporal rela­tion to improvement of the presumed causative disorder

3. 頭痛の改善は、推定される原因疾患の改善と時間的関係が一致する。

 

4. Headache has characteristics typical of the causative disorder

4. 頭痛に、原因疾患の典型的な特徴がある(注3

 

5. Other evidence exists of causation

5. 原因と推定できる他の証拠がある(注4

D. The headache is not better accounted for by another headache diagnosis

D. 頭痛は、他の頭痛診断によって、うまく説明できない.

 

注:

1.

頭痛は有病率の高い疾患であるので、他の疾患と偶発的に合併しているだけで、因果関係がないということもありうる。従

って、ある疾患が頭痛をひきおこすことを示す科学的な研究に基づく根拠が存在する場合にのみ、二次性頭痛の確実な診

断を行うことが可能となる。科学的な証拠とは、ある疾患と頭痛の時間的な関連をその治療と頭痛の経過を含めて観察し

た大規模な臨床研究や、小規模でも、最新の画像検査、血液検査、他の臨床検査(paraclinical tests)で、日常臨床では

利用できないようなものであってもよい。換言すれば、研究方法は診断基準として日常臨床に使用できるものでなくとも、診

断基準Bの疾患と頭痛の因果関係を一般的に明確にするものであれば有用であるということである。ただし、分類全体を通

して、診断基準の内容は一般的な臨床で診断医が利用可能な情報や検査項目に制限すべきである。

2.

一般基準では、関係を示唆する根拠のうち独立した2項目以上を満たすことが必要であり、関係を示す根拠として5種類が

設定されている。これらの5つの類型が全ての二次性頭痛で適切とは限らないし、特定の二次性頭痛に特化した診断基準

においてはすべてが必要というわけでもない。原因疾患の悪化や改善は、臨床的に判断するか、画像検査や他の臨床検

査によって判定しうる。

3.
腰椎穿刺後の起立性頭痛や、くも膜下出血における突発性頭痛が良い例である。頭痛に特徴があれば、各二次性頭痛において特定する必要がある。

4.
この項目は、原則として、各二次性頭痛において、各々、特定されるべきである。たとえば、頭痛の部位と推定される原因疾患の位置が一致しているといった根拠をあげることができる。

 

 

Box 3 Suggested revised criteria for headache attributed directly to intracranial neoplasm

脳腫瘍そのものによる頭痛の診断基準改訂案

 

7.4.2 Headache attributed directly to intracranial neoplasm

7.4.2 脳腫瘍そのものによる頭痛 

Diagnostic criteria:
診断基準:

A. Headache of any type, fulfilling criteria C and D

  基準CとDを満たす頭痛がある

B. Intracranial neoplasm shown by imaging

  画像検査により頭蓋内腫瘍が示されている

C. Evidence of causation shown by at least two of the following:

  以下のうちの少なくとも2つにより、原因とする根拠が示される

1. Headache has occurred in temporal rela­tion to the onset of the neoplasm

1. 頭痛の発現は、腫瘍の発生と時間的関係が一致する

2. Headache has worsened in temporal rela­tion to growth of the neoplasm

2. 頭痛の増悪は、腫瘍の増大と、時間的関係が一致する

3. Headache has improved in temporal rela­tion to improvement of the neoplasm

3. 頭痛の改善は、腫瘍の改善と時間的関係が一致する

4. Headache is progressive, or worse in the morning or after daytime napping, or made worse by coughing or bending

  over

4. 頭痛は進行性であるか、朝や日中の睡眠後に悪化するか、咳嗽や体の屈曲により増悪する。

5. Headache is localized corresponding to the site of the neoplasm

5. 頭痛は、腫瘍の発生部位に一致している。

D. The headache is not better accounted for by another headache diagnosis

  頭痛は、他の頭痛診断によって、うまく説明できない.

 

 

 

文献

1. 翻訳委員会訳, 国際頭痛分類第2版日本語版. 日本頭痛学会誌 31(1):13-188, 2004.

2. Olesen J, Steiner T, Bousser MG, et al. Proposals for new standardized general diagnostic criteria for the secondary

  headaches. Cephalalgia 29(12):1331-1336, 2009.

3. Headache Classification Subcommittee of the International Headache S. The International Classification Of

  Headache Disorders; 2nd Edition. Cephalalgia ;24 (suppl 1):1-160, 2004.

4. Silberstein SD, Olesen J, Bousser MG, et al. The International Classification of Headache Disorders, 2nd Edition

  (ICHD-II)--revision of criteria for 8.2 Medication-overuse headache. Cephalalgia 25(6):460 - 465, 2005.

5. Olesen J, Bousser MG, Diener HC, et al. New appendix criteria open for a broader concept of chronic migraine.

  Cephalalgia 26(6):742-746, 2006.

6. 竹島多賀夫, 間中信也, 五十嵐久佳, 他. 慢性片頭痛と薬物乱用頭痛の付録診断基準の追加について. 日本頭痛学会

  誌 34(2):192-193, 2007.

7. 翻訳委員会訳, 国際頭痛分類第2版 新訂増補日本語版 東京: 医学書院;2007.

8. Headache Classification Committee of the International Headache S. Classification and diagnostic criteria for

  headache disorders, cranial neuralgias and facial pain. Cephalalgia 8 Suppl 7:1-96, 1988.