日本頭痛学会

HOME << 市民・患者さんへ << たかが頭痛、されど頭痛~片頭痛と血管障害の関係(心筋梗塞、脳卒中)~

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 脳などに脳腫瘍など他の病気がない頭痛(一次性頭痛)で,頭痛の前にキラキラした光やギザギザした光などを伴う「前兆のある片頭痛」と,このような視覚性の症状を伴わない「前兆のない片頭痛」があります.

 

 欧米では片頭痛の方が,心血管障害(心筋梗塞など)を生じる危険因子を多く有する傾向が知られています.この危険因

子には喫煙や飲酒,高血圧,脂質異常症(コレステロールの異常),経口避妊薬などがあります.そして,このような危険因

子があると,片頭痛の方は,頭痛がない人よりも心筋梗塞などを発症しやすい可能性が示唆されており,「前兆のある片頭痛」の方にその傾向が強いと報告されています.


 この要因にはまだまだ議論がございますが,これらの危険因子を有すること自体が,心血管障害発症の危険があるという

ことには変わりはなく,当然このような危険因子の治療は必要です.

 

 心筋梗塞と同様に,脳梗塞の合併率が高いことが知られています.片頭痛では頭痛のない人と比較すると約2倍発症率が高いと言われており,特に「前兆のある片頭痛」の方に高いと報告されていますが,最近では前兆の有無は無関係とする報告もみられており,高齢者よりも若い方に合併が多いとも言われています.

 

 さて,心臓は左右の心房と心室の4つの部屋に分かれています.体をめぐる動脈は,左心室から全身に流れていき,体の

末端で静脈になります.その静脈血は右心房に入り,右心室から肺動脈を経て肺で酸素と混ざり,肺静脈となって左心房,

そして左心室に戻ってきます.片頭痛のある方では,この心房を隔てている心房中隔という壁に小さい穴が開いていること

が多いといわれており,心房中隔欠損症や卵円孔開存症という名称になります.卵円孔開存症は通常の状態ではほとんど

穴が開いていないことが多く,心房中隔欠損症では動脈血が静脈に混ざってしまいます.しかし,排便時などの「いきみ」が

加わると,静脈血が動脈血に混入する,いわゆる「右左シャント」という状態になります.このほか,肺の動脈と静脈が一部

つながってしまっている,肺動静脈瘻という疾患もあります.多くの方はごく軽度であり,日常生活に支障をきたすことはあり

ませんが,この「右左シャント」が存在すると,脳卒中の合併が増加することが知られています.

 

 卵円孔開存症は片頭痛のない人でも約25%にみられますが,片頭痛の方では40~70%に合併していると報告されていま

す.特に「前兆のある片頭痛」で多いことが知られており,約半数の方に存在していると推定されています.以前は卵円孔開

存症を閉鎖する手術により,片頭痛が減少すると報告されていました.残念ながら現時点では,その治療効果を明確に証

明はできておりませんが,静脈血が動脈内に混ざってしまう「右左シャント」の存在により,小さな血の塊が脳表面の血管を

詰まらせたり,セロトニン等の化学物質が脳血管内で上昇することが片頭痛の誘因になっているとも推察されています.

将来,卵円孔開存症の閉鎖と片頭痛との関連について,より詳細に検証されることで,頭痛治療の一つとなりえるかもしれ

ません.

 

 一方,心臓の4つの部屋を分けている「ドア」の役割をしているものの一つに,僧帽弁というのがあります.この僧帽弁が閉

じる時に,その一部が飛び出てしまうものが僧帽弁逸脱症と呼ばれています.その大多数は無症状であり,治療の必要性

はありません.しかし,まれではありますが,不整脈を誘発したり,抜歯の際に細菌が侵入して僧帽弁に付着し,感染性心

内膜炎という重篤な病気を引き起こすことが知られています.このような場合には手術や内服治療が必要となります.

 

 このような心臓の状態を調べる検査には,超音波検査があります.胸から直接図1のような探触子とよばれる機械をあて,

痛みなどなく検査が可能です.


図1経胸壁心臓超音波検査の探触子

 

 

 ただ,「右左シャント」をみつけるためには,経食道心エコー図と呼ばれる検査が必要となります.この検査は,胃カメラを

するように,探触子を飲み込んで,心臓を裏側から観察する必要があります(図2).

 

図2経食道心臓超音波検査の探触子

 

 

 この時,右肘の静脈から点滴を確保する必要があります.この点滴から超音波で観察できるような小さい泡を注射し,右

心房から左心房に泡が抜けるのを観察します(図3).

 

 

図3経食道心臓超音波検査により判明した「右左シャント」

 

 

 この方法が最も一般的な方法となりますが,場合によっては頭のこめかみから探触子をあて,同様に点滴を併用しながら

診断する場合もあります(図4).

 

 

図4経頭蓋超音波検査

 

 

 

 さて,動脈は3つの層から形成されておりますが,その内側の層ないし2番目の層がはがれてしまうのが動脈解離という病

気です.片頭痛では首にある頸動脈解離(図5)を合併しやすいことも知られており,この解離は若い方の脳梗塞の原因とし

て知られています.最近では,この解離は片頭痛発作後に生じやすいとも報告されています.

 

 

図5頸動脈解離(頸動脈超音波検査)

 

 

 片頭痛は発作が起こっている時は動けず,仕事も手に付かず,他の人に分かってもらえず,じっとしていることしかできま

せん.しかし,頭痛発作が改善した後は日常生活に支障はなく,「たかが頭痛」と一蹴されてしまうことも少なくありません.し

かし,心筋梗塞や脳梗塞などの一蹴することのできない病気を合併しやすい疾患でもあります.このような合併症の頻度は

決して多いとは言えませんが,片頭痛発作の回数が多い方では脳梗塞の頻度は上昇することも報告されております.正確

な診断そして適切な治療が日常生活への支障を最小限にするのは述べるまでもありませんが,心筋梗塞や脳梗塞といった

,一蹴できない合併症を発症しない可能性も高まると予想されます.そして,喫煙など血管に悪い影響を及ぼしやすい嗜好

は避け,健康診断などでコレステロール値などに注意をしていくことが,うまく頭痛と付き合っていく一番の方法だと思われ

ます.

 

 

 最後に,「いつもと同じ頭痛」は本当にいつもと同じ頭痛でしょうか?ちょっとでもいつもの片頭痛とは違うような痛みである

場合,くも膜下出血や脳動脈解離,脳内出血といった全く別の病気が起こっているかもしれません.「いつもと違うような頭

痛」と感じたら,すぐに病院で検査をしてもらうのが後悔をしない唯一の手段です.

 

 

(獨協医科大学神経内科脳卒中部門 竹川英宏)

 

 

参考文献

Schürks M, Rist PM, Bigal ME, et al. Migraine and cardiovascular disease: systematic review and meta-analysis. BMJ.

2009 Oct 27;339:b3914. doi: 10.1136/bmj.b3914.

 

Schwedt TJ. The migraine association with cardiac anomalies, cardiovascular disease, and stroke. Neurol Clin. 2009

May;27(2):513-23.

 

De Reuck J, Paemeleire K, Van Maele G. Stroke in patients with migraine. Neurol Neurochir Pol. 2010 Mar-

Apr;44(2):118-22.

 

Artto V, Metso TM, Metso AJ, et al. Migraine with aura is a risk factor for cervical artery dissection: a case-control

study. Cerebrovasc Dis. 2010;30(1):36-40. Epub 2010 Apr 29.

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